池田大作と「ソフト・パワー」論
アモイ大学 王虹
概要
「ソフト・パワー(soft power)」という理論はアメリカ、ハーバード大学大学院ケネディースクール教授であり、クリントン政権時代国防次官補を歴任したジョセフ・ナイ(Joseph Nye)が最初に提出したものである。「ソフト・パワー」とは「ソフト国力」、「ソフト権力」、「ソフト力」とも称され、「他人に影響を与えるすばらしい力」を指す。また、「ハード・パワー」と比べこれは、精神と道徳の訴求により他人が自分の行為基準、価値観、生活様式および社会制度を信頼するようひきつける魅力と感動力であり、その上に成り立っている同化力と規制力でもある。その中で、主に文化の魅力と感動力を含め、対外政策、イデオロギー、政治的価値観への影響力なども含まれているが、その文化的ソフト・パワーは国家ソフト・パワーにおける最も重要な一部分である。
日本はソフト・パワーに力を注いでいる国である。そしてソフト・パワー理論を提唱した第一人者は創価大学の創立者、現在名誉会長の池田大作といえよう。ジョセフ・ナイの説が世に出た翌年、池田氏はハーバード大学で講演を行った。そのテーマは「ソフト・パワーの時代と哲学」であった。彼は宗教の角度からソフト・パワーの国家発展と世界平和に対する重要性を論じた。その後にはじめて、日本でソフト・パワーに関する研究論文と研究所が現れており、ソフト・パワー理論への研究が広まってきた。
池田大作が最も早く国際関係と「ソフト・パワー」の重要性に注目した理由は、彼の世界平和の価値を終始追求する信念にあるのではないかと思う。彼の世界平和観をまとめてみると、主に次のような特徴を呈している。一つは暴力の根絶、平和主義の提唱、もう一つはすべての戦争撲滅、平和主義の徹底追及、そして生命尊厳を重視し、徹底的な世界平和を履行することである。彼の世界平和観と理論は、彼個人の経歴と社会的背景以外に、人間主義の哲学観念、暴力反対の東方価値観理念、そして人間平等の仏教思想の上に成り立っているものである。
こうした池田大作の世界平和の価値追求と「ソフト・パワー」との接点は強制力や武力による解決論と違い、「兼愛非攻」「以徳服人」の感動力と魅力にある。ハード・パワーとは軍事力や経済手段による他国への強制力であり、それとは間逆であるソフト・パワーは国家の文化や政治制度、価値観などによって他国を魅了し、説得する力である。池田大作がソフト・パワー理論に最も早く注目し、積極的に提唱した故の一つであろう。
池田大作が日中友好の促進、世界平和と文化教育交流への貢献をしたという遍歴をみれば、それは日本戦後ソフト・パワーの増強に不可欠な一部分であり、これは人為的故意的にすることでなく、日本のソフト・パワーに対する彼の貢献が、日中関係の発展とソフト・パワー構築に関する研究の参考とすることができよう。
本論考は全面的に池田大作とソフト・パワー論を研究する趣旨であったが、中国での資料収集と環境など諸要素の制限があるため、彼のソフト・パワー論に現れる日中両国の友好事業、世界平和に対する活動、文化教育という三つの方面を中心として展開するものとしたい。
キーワード:池田大作 ソフトパワー 平和 文化 教育
作者案内
氏 名:王虹
所 属:アモイ大学
機 関:日本研究所
役 職:所長・教授
専門分野:文化言語学 応用言語学 東アジア問題研究
住 所:福建省アモイ市思明南路422号
TEL:86-5922187376
E-mail:awh@xmu.edu.cn